公開日:2024年11月26日最終更新日: 2024年11月28日
ITシステム環境の運用コストを効率化できるサーバーレスが採用されるようになり、アプリケーション実行環境だけでなく機密情報や共有データのためのストレージの管理も外部サービスに任せることが可能になりました。その結果、物理的な装置の交換や故障時の対応から解放されたり、難しい設定作業の手間が削減できたりと様々なメリットをもたらしています。
ただし、重要なデータを企業の外側に配置するからにはセキュリティ上の懸念やサービスの可用性など考慮すべき点があり、それらの条件を満たすサービスが求められます。
Azure Filesは、ファイルサーバーのような共有ストレージを簡単に構築できるクラウドサービスです。単なるファイル保管庫に止まらず、頻繁な入出力に耐えうる高性能な永続ストレージとしても扱えます。この記事では、Azure Filesを導入するメリットや使用例を解説していきます。ファイルサーバーのコスト見直しやストレージの効率化を検討されている方はぜひご参考ください。
目次 <Contents>
Azure Filesとは
Azure Filesは、クラウドやオンプレミスから接続可能なネットワークストレージを簡単に構築できるサービスです。ストレージはAzureのプラットフォーム上で管理されているため、セキュリティサービスであるMicrosoft Entraと連携してアクセス制御ができたり、組織内のActive Directoryの管理下に置いたりと場所を問わずセキュアに接続できます。
パブリックなクラウドストレージサービスと違って、サーバーの永続ストレージとしてWindowsやLinuxのサーバーからマウントできるため、アプリケーションからのアクセスの利便性やパフォーマンスの面で優れています。また、パフォーマンスの異なるストレージの種類とその料金プランが用意されており、用途に応じてコストを最適化することが可能です。
また、ストレージの冗長性の高さと拠点間バックアップによる耐障害性の特徴も兼ね備えています。加えて、利用者による誤削除やファイルの破損に対応できるバックアップ、復元機能も搭載しており、予期しないデータの損失にも対応可能です。
このように、Azure Filesはファイル管理に必要とされる高い可用性と保全性を備えたストレージサービスです。
Azure Filesを導入するメリット
Azure Filesには次のような特徴があります。
ファイル管理コストの削減
社内にファイル共有の仕組みを導入し、管理するには大きなコストを支払わなければなりません。例えば、物理的なサーバーやストレージの購入と設置に加えて、RAIDやディザスタリカバリ、バックアップ態勢など障害に対する計画が必要となります。さらに規模が大きくなってくると、それに見合ったスケールアウトと障害対策の見直しが必要です。
これらのコストはAzure Filesを利用することで大きく削減できます。Azure Filesではクラウド上に自由にストレージを追加や増量が可能で、利用料金はディスクの容量や読み書き頻度に応じて発生します。ディスク容量の大きさとディスク読み書きに掛かる利用料金はトレードオフの関係にあるため、用途に応じて最適な料金体系を選択可能です。
また、特定のリージョンではありますが上記の従量課金の他にも、確保したディスク容量や指定したディスクパフォーマンスの高さに比例して料金が増減するプランもあり、要件を詳細に予測できる場合はより最適なコストに近づけることが可能です。
共有ファイルサーバーを簡単に構築
Azure Filesでは、複数のマシンからアクセスできるファイルサーバーを簡単に構築できます。ストレージとの接続にSMBやNFSがサポートされているため、WindowsやLinuxで構築された既存のサーバーからマウントすることができます。なお、企業内LANのような異なるネットワーク上のサーバーからでも、Azure ExpressRouteやVPNなどのプライベートネットワーク接続によりAzure Filesとセキュアにつなぐことが可能です。
また、社内の機密情報の保護に必要とされる安全性も考慮されています。Azure FilesのストレージにMicrosoft Entra IDの認証機能を適用すれば、各利用者に対してファイルレベルで権限を設定できるため、厳しくかつ柔軟なアクセス制御が可能です。
ファイルサーバー構築にAzure Filesを活用することで、社外からのアクセスを可能にしながらも高いセキュリティを保つことができます。
Azure Filesの用途
Azure Filesはネットワークストレージを素早くかつ低コストで配置できるので、次のような用途で活用できます。
社内ファイルサーバーのクラウドへの移行
社内の共有ファイルを統合したり、既存のファイルサーバーの管理コストを見直したりする際にはAzure Filesは有用な選択肢になるでしょう。特にActive Directoryのドメインに属したファイルサーバーであれば、アクセス制御を改めて設定することなくAzureに移行することが可能です。あるいは運用コストの大きな一部のファイル共有だけを移行するハイブリッドな構成や段階的な移行も選択肢に挙げられます。
また、細かなアクセス制御をかけることで社内アクセスに加えて、在宅ワークや外出先からの接続、関係会社とのデータ共有など、あらゆる場所からのアクセスにも対応しやすいメリットもあります。
仮想マシンのマウント先
Azure FilesのストレージはWebアプリケーションに必要なデータ保存先としても活用できます。仮想マシンやコンテナなど複数のマシンからマウントできるので、ネットワークレベルで分散されたシステム構成でも共有データを利用したり、保存したりできます。また、ディスク容量を増量しやすいため、膨らんでいくログやユーザーデータへの対処が容易です。
Azure Filesの利用料金
Azure Filesの料金モデルを大別すると、指定したストレージ性能に応じて料金が発生するプロビジョニングモデル、使用したディスク容量やアクセス回数に応じて料金が加算される従量課金モデルの2種類があります。
プロビジョニングモデルでは、ストレージの種類としてHDDとSSDが選択でき、ストレージのパフォーマンス要件や想定されるアクセス頻度に合わせてコストを抑えることができます。
プロビジョニングモデルV2 HDD
課金対象 | 料金 |
---|---|
プロビジョニングされたディスク容量 | 1.6807円/GiB/月 |
ディスクのIOPS | 8.9633円/秒 |
ディスクのスループット | 13.3329円/MiB |
オーバーしたスナップショットの容量 | 1.6807円/GiB |
プロビジョニングモデルV1 SSD
課金対象 | 料金 |
---|---|
プロビジョニングされたディスク容量 | 29.4682円/GiB/月 |
スナップショットの容量 | 25.0173円/GiB |
プロビジョニングモデルV1 予約
ディスク容量 | 1年間予約の料金 | 3年間予約の料金 |
---|---|---|
10TiB | 247,435.35円/10TiB/月 | 199,157.36円/10TiB/月 |
100TiB | 2,353,679.76円/100TiB/月 | 1,931,226.06円/100TiB/月 |
一方、従量課金モデルはディスク容量やデータアクセスに掛かる料金がそれぞれ異なるストレージ層を選べる料金体系です。ディスク容量とデータアクセスのどちらを重視するかで適切なストレージ層が変わるため、使用量を予測して選択しましょう。
従量課金モデル
課金対象 | トランザクション最適化 | ホット | クール |
---|---|---|---|
使用ディスク容量 | 9.2089円/GiB/月 | 4.6045円/GiB/月 | 3.4534円/GiB/月 |
スナップショットの容量 | 9.2089円/GiB/月 | 4.6045円/GiB/月 | 3.4534円/GiB/月 |
書き込みトランザクション | 2.3023円 | 9.9763円 | 19.9525円 |
リスト取引数 (10,000件あたり) | 2.3023円 | 9.9763円 | 9.9763円 |
読み込みトランザクション | 0.2303円 | 0.7981円 | 1.9953円 |
その他すべての操作 | 0.2303円 | 0.7981円 | 0.7981円 |
データ取得(GiBあたり) | ー | ー | 1.5349円 |
従量課金モデル 予約(ホット、クール)
ディスク容量 | 1年間予約の料金 | 3年間予約の料金 |
---|---|---|
10TiB | ホット:38,664.18円 クール:28,994.94円 | ホット:31,118.08円 クール:23,337.49円 |
100TiB | ホット:367,763.67円 クール:275,816.36円 | ホット:301,754.48円 クール:226,314.79円 |
なお、上記の表は2024年11月時点の情報で、料金は1ドル153.48円換算で算出しています。詳しい料金項目は公式サイトの料金表をご参照ください。
Azure Filesの使い方
ここからはAzure Filesを使ってネットワークストレージを作成し、仮想マシンにマウントする手順を解説していきます。なお、手順中に記載されているファイル共有や仮想マシンの作成後には料金が発生するためご注意ください。
ストレージアカウントの作成
Azure Filesのファイル共有を作成するには、ストレージアカウントを作成する必要があります。Azureポータルからストレージアカウントを作成しましょう。
ストレージアカウントが作成できたら、メニューの「セキュリティとネットワーク」から「アクセスキー」を開き、下記の項目を確認しておきましょう。
ファイル共有の作成
ストレージアカウントのメニューの「データストレージ」から「ファイル共有」を選び、画面上にある「ファイル共有」を選びましょう。
ファイル共有の作成画面が開きますので、「名前」、「アクセス層」を入力して作成しましょう。
ファイル共有をマウントする
まずは、ファイル共有のマウント元になるWindowsサーバーを用意するために、Azure Virtual Machinesで仮想マシンを作成します。
ここでは仮想マシンのOSとしてWindows Server 2022を選んでいます。
仮想マシンが作成できたら、リモートデスクトップ接続でログインしましょう。続けてエクスプローラーを開き、ネットワークドライブの割り当てを行います。
ネットワークドライブの割り当てでは、適当なドライブレターとファイル共有パスを入力しましょう。
初めてアクセスすると認証ウィンドウが表示されるので、ユーザ名とパスワードの欄にストレージアカウントで控えた各項目を入力しましょう。
ファイル共有のマウントが完了すると、エクスプローラーにネットワークドライブとして認識され、他のドライブと同じようにアクセスできるようになります。
まとめ
Azure Filesは、ファイル共有や分散システムなどに利用されるネットワークストレージを簡単に構築、運用できるクラウドサービスです。高い可用性や保全性を誇るAzureの強力なプラットフォーム上にストレージが構築されるため、データ管理における不正アクセスや情報漏洩、ハードウェア障害などの様々なリスクの低減が期待できます。ファイルサーバーの移行や新規購入をお考えの方は、導入や管理に掛かるコストが抑えられるAzure Filesの導入を検討してみてください。